土屋 義信

つちや よしのぶ

土屋 義信 Yoshinobu Tsuchiya

生命学部 食品生命科学科 教授
出身:広島市(修道高等学校)
y.tsuchiya.d2@it-hiroshima.ac.jp

広島工大のキャンパスで発見された酵母が、新たなパンやお酒を生み出すかも!

人間は食品製造のため、自然に存在する微生物の力をいろんな場面で利用しています。「酵母」は、その代表的な存在。パンがおいしく焼き上がるのも、日本酒やビールなどのお酒が誕生するのも、酵母の働きがあるからこそです。この酵母の研究を続けてきたのが土屋先生。長年の成果を土台として、先生は今、あることにチャレンジしています。それは「広島工業大学のキャンパス内から、食品生産に活用できる新たな酵母を発見する」ことです。

酵母菌の働きがなければ、お酒もパンも自然燃料もできない。

酸素の少ない状況で、糖をエタノール(エチルアルコール)と二酸化炭素に分解することで、生存に必要なエネルギーを得る。酵母菌の「アルコール発酵」と呼ばれるプロセスがなければ、ほぼ全てのアルコール飲料は生まれません。パンについても、パン酵母(イースト菌)がアルコール発酵を行って、パン生地を膨らませるからできるのです。食品だけではありません。トウモロコシやサトウキビからバイオエタノールという自然エネルギーを作る際にも、酵母菌が活躍しています。人間の生活において、酵母菌がどれほど重要か理解できるでしょう。
広島は、お酒の産地として知られており、醸造技術も全国トップクラスです。私は広島工業大学に赴任する前、県内の食品研究所に在籍し、酵母菌の発酵工程を研究していました。広島工業大学への赴任後も、食品メーカーや酒造会社からの相談を受けたり、共同研究を進めたりしています。広島工業大学のキャンパス内で酵母菌を探しているのも、企業とともに進めている新食品の開発に活かしたい、と考えているからです。

新たな酵母の発見は、より価値の高い食品の開発につながる。

日本酒の場合、現在ではどの酒造メーカーもほぼ同じ種類の酵母を使ってお酒を作っています。もちろん同じ酵母と言ってもメーカーが違うと味は異なりますが、出発点が同じである以上、味の広がりには限界があります。そこで新たな酵母への需要が生まれているわけです。新たな酵母により、従来の日本酒にない風味を加えたり、新たな味や機能をもったパンが作れるかもしれません。そんな酵母を、広島工業大学で発見したいのです。
今はキャンパス内のいろんな場所(主には植物の花)からサンプルを集め、ふるいにかけているところです。それぞれの酵母を、温度やpH値といった条件を設定し、選別します。そして残った酵母の特徴を調べるわけです。
お酒の香りを変えたい、パンにこれまでと違う風味を加えたいと考えても、実現する酵母菌を見出すのは簡単ではありません。まず可能性がある酵母菌を選び、何世代も掛け合わせて特徴を際立たせないといけません。長い時間のかかる研究ですが、やりがいも大きいですよ。食品製造に役立つ酵母に巡り会えたら、ぜひ広島工業大学に由来する名前をつけたいと思います。

広島工業大学のキャンパス内で収集した酵母を培養中。どんな酵母が見出だせるか楽しみだ。

「食品廃棄物」の問題を、乳酸菌の力で解決。

もう一つ、食品廃棄物(副生物)に関する研究にも取り組もうとしています。
広島ではイカダを利用した牡蠣の養殖が盛んです。竹からこの牡蠣イカダを作る際、大量に出る枝と葉っぱは、そのままでは廃棄物になってしまいます。そこで広島県の畜産技術センターでは、乳酸菌によって枝と葉を発酵させ、牛の飼料を作ろうとしています。
そこへ酵母菌がやってくると、せっせとアルコールを作り出し始めます。こうなると味が悪くなるのか、牛が食べなくなってしまうのです。牛の喜ぶ飼料を作るには、酵母の発生を抑制しなければなりません。お酒やパンでは酵母菌が主役ですが、食品廃棄物の問題では逆に悪役になってしまうわけです。そこで私のゼミで、酵母菌抑制の方法を研究する予定です。
酵母菌が優勢になると、乳酸菌は劣勢になる。別のシーンでは逆になることは、自然界ではよくあること。きちんとコントロールすれば、共に心強い味方になってくれるのです。
食品製造時の副生物を、微生物の力を借りて他に利用したいという要望は、いろんな企業から寄せられています。酵母や乳酸菌とうまく付き合い、地元産業の活性につながるものを生み出したいですね。

有用性の高い酵母を選別するため、さまざまな設備を使用する。

ゼミ取材 こぼれ話
「酵母菌は、『自分を傷つけるもの』を一生懸命作り続けているんですよ」と語る土屋先生。「アルコールは『殺菌剤』としても使われますよね。度数の高いアルコールは、菌類にとって『毒』です。酵母菌はアルコールに耐性をもっていますが、全く平気というわけではありません」。酸素が乏しいという過酷な環境下だからこそ、自分を傷つけてでもアルコールを作り出し、生命を維持する酵母菌。日本酒もパンも、言わば酵母菌の「命がけの営み」を、人間は利用させてもらっているわけです。微生物と長く付き合ってきた土屋先生は、発酵の本質に目を向けることを忘れません。