今井 章裕

いまい あきひろ

今井 章裕 Akihiro Imai

生命学部 食品生命科学科 助教
出身:北海道 留寿都村(札幌開成高等学校)
a.imai.2j@cc.it-hiroshima.ac.jp

植物の枝や葉っぱを切ると、なぜ切り口から根が生えてくる?

動物の場合、転んですりむいた皮膚の傷口は、皮膚として再生されます。今まで皮膚だった細胞が、次は筋肉細胞に変わるといったことは、通常起こりません。「しかし植物では、こうしたことはごくありふれているんです」と語るのは今井先生。「例えば"挿し木"がそうです。木の枝を切って土にさしておくと、枝の切り口から根が出てきます。本来、機能の全く異なる枝から根が出てくるなんて、動物では考えられません」。そんな不思議な植物の世界に魅力を感じ、先生は研究を続けています。

生命の危機が、植物の「分化全能性」を発現させる。

2011年、京都大学・山中教授が「iPS細胞」の研究でノーベル賞を受賞したことは、ご存知の人も多いでしょう。動物の場合、分化して特定の機能を持った体細胞が、別の細胞に変わることはありません。皮膚の細胞は、どうやっても皮膚の細胞のままです。ところがiPS細胞を作る技術によって、一度皮膚や筋肉の細胞になったものをリセットして幹細胞と呼ばれる状態に戻し、全く別の細胞に変更できてしまうのです。
この「さまざまな細胞に変化できる能力」のことを「分化全能性」と言います。実を言うと植物の世界では、分化全能性を持つ細胞はめずらしくない、ありふれた自然の営みなのです。例えばサボテンの子株を折って植えておくと、やがて根が生えてきます。切り口にある細胞が、根の細胞として生まれ変わったのです。挿し木の場合も同様で、切られた枝(茎)の細胞が、根の細胞に変わったわけです。
本来、葉や枝と根は全く異なる細胞です。しかし葉や枝が切られてしまうと、根を持っていないため、養分を吸い上げられません。そんな危機に瀕した個体が生命を維持するため、一部の細胞を根として再生した、と考えられます。

葉っぱの先から次々に新たな「芽」を出すコダカラソウ。

写真Aはコダカラソウという多肉植物です。葉っぱの縁(ふち)に注目すると、細かな凹凸があるのですが、そのへこんだ部分から小さな何かが出ています。これ、一つひとつが芽なのです。芽の下側から伸びる白い糸状の器官は根です。暖かくなると葉っぱからどんどん芽が出て、地面に落ち、新たな株が増えていきます。
芽が出るのは葉のへこんだ部分からだけで、でっぱった部分からは出ません。先日、私が試しに、芽の出ていない葉を一枚ちぎって地面に置いてみました。するとアッという間に芽が出てきたのです。これも挿し木などと同様で、個体維持の危機に瀕したため、新たな株を作って増やそうという防衛本能のようなものなのでしょう。しかし、メカニズムは全くわかりません。調べれば調べるほど、植物の世界は不思議に満ちています。

写真A。コダカラソウの生育の様子。株の上側にある葉っぱの端から新しい芽がいくつも生まれている。

神経細胞を持たない植物が、どうやって生命の危機を察知しているのか?

コケの研究も行っています。コケは再生力の強い植物で、葉っぱを切り取ると、一日半程度で葉の細胞がプロトネマ(原糸体)と呼ばれる器官に変化し、増殖していきます。生長しきった葉は本来、それほど細胞分裂を繰り返す器官ではないのですが、切られたことで危険を察知した細胞が幹細胞に戻り、別の細胞として生まれ変わったのでしょう。
「察知して」と言いましたが、神経細胞を持たないはずの植物が、なぜ危機を察知できるのでしょうか。切られて傷を負った細胞と、幹細胞になる細胞は、別の細胞です。切られた細胞は、どうやって周りの細胞と連絡を取り合っているのか・・・興味は尽きません。
こうした植物の再生機能の解明が、もしかすると動物細胞の仕組みを理解する上でも役立つのではないか、と考えています。植物分野で見つかった知識が動物の細胞で応用できても、おかしくはありません。そのためにも、研究を進め、謎を解明していきたいですね。

研究用に栽培しているシロイヌナズナ。ダイコンなどと同じアブラナ科の植物で、植物としては最初にゲノムDNAの配列が解読された。育てやすく、研究に用いられやすい。

ゼミ取材 こぼれ話
親は農業をやっていた、という今井先生。植物の世界は先生にとって、普段から身近な存在でした。「例えばニンジンだと、種から芽が出ます。しかしジャガイモの場合、種芋を植えることで芽が出ます。種から生まれたニンジンは、親世代から見ていわゆる"子供"ですが、種芋から生まれるジャガイモは"クローン"です。なぜ植物によって植え付け方が違うのかな?と小さい頃から疑問に思っていました」。そんなきっかけから植物の研究を始めることになったのだそうです。「生命の謎に迫るためにも、また"食物の生産"という観点からも、植物の研究は重要です」と、先生は研究に打ち込んでいます。