塚本 壮輔

つかもと そうすけ

塚本 壮輔 Sosuke Tsukamoto

生命学部 生体医工学科 准教授
出身:広島県広島市(広島工業大学附属工業高等学校(現・広島工業大学高等学校))
s.tsukamoto.ri@it-hiroshima.ac.jp

機器操作だけではなく、開発や改善にまで関われるメディカルエンジニアを育てたい。

臨床工学技士の役割は「医療現場において各種の医療機器を操作・運用・保守し、治療行為をサポートすること」と定義されています。しかし学生にはもう一歩踏み込んで、日々の研究の中で医療機器開発・改善にまでアイデアを出していけるような専門性を身につけてほしい、と塚本先生は考えています。「現場で 『もっと患者さんの力になりたい』と感じた時、自分で筋道を立てて考えられる人になってほしいんです」と話す先生のゼミでは、医療に関わるさまざまな研究が行われています。

高齢者の健康や暮らしをサポートするための医療機器開発を経験。

2007年、高齢化率が21%を超え「超高齢社会」を迎えた日本。
私は以前、愛知県にある国立長寿医療研究センターで高齢者のための医療機器開発を担当していました。最初に取り組んだのは「ベテラン看護師の動きを可視化するシステム」です。寝たきりの患者の体に床ずれができないよう、病院では看護師が患者の体位変換を行います。しかし経験の浅い看護師はうまく体位変換ができず、床ずれになってしまうケースがあります。そこで、ベテラン看護師のやり方を共有することができれば、経験の浅い人でも上手に体位変換できると考え、動きを可視化するシステムを考えたのです。
並行して「車椅子に乗り移る動きの計測システム」の開発も進めていました。ベッドから車椅子に乗り移るのは簡単ではなく、トレーニングが必要です。しかし、たいていの人はやったことがないので、何をどうすればいいのかわかりません。そこで患者がベッドから車椅子に乗り移る動作を定量的に記録し、どういう時に体のどこに力を入れればよいのかを明らかにしよう、と考えたわけです。
このような私のさまざまな取り組みを土台に、学生たちには独自の視点や工夫でテーマを設定し、研究を進めてもらっています。

先生の研究室には、機械設計や回路設計の際に用いる測定器などがある。

ベッドに横になっただけで、血圧が測定できる?

「ベッドに横になっただけで血圧が測定できるセンサー」の開発にも携りました。血圧の測定は、腕にベルトを巻いて行うことが多いのではないでしょうか?でもそれでは「安静状態」とは言えません。トイレで便座に座った時に測定する、という方法もありますが、トイレまで歩いた直後なので、これも安静状態ではありません。安静状態の血圧を測定するのに最適なのは、ベッドで横になっている時です。
心臓が鼓動した瞬間と、腕に血液が流れた瞬間が感知できれば、時間差から脈波伝播速度というものがわかります。これは血圧と相関性が高いので、脈波伝播速度がわかれば血圧も測定できるはずです。そう考えて研究を始めました。まだ実現していませんが、試作段階で作ったセンサーは、学生に回路設計やセンサーを学ばせるための良い教材になっています。
どんなシステム開発においても言えることですが、医療機器研究の難しさは「対象が人間」という点ですね。工業製品であれば、同一の条件で計測したら常に同じ答えになります。しかし人間の場合、そうはいきません。たまたま調子が良かったおかげかもしれないし、再現性がないケースもあります。そこが難しくもあり、やりがいを感じる点でもあります。

ベッドで脈波伝播速度を測定するためのセンサーと回路。医療機器の仕組みの基本を学ばせる教材として活用している。

学生自らが興味の持てるテーマに取り組ませることで、専門性を育む。

学生たちにはできる限り、自分のやりたいテーマに取り組ませたいと考えています。
ある学生が取り組むのは「医療機器のアラーム音を、音以外の方法で伝えるシステム」の開発です。医療機器はさまざまなアラーム音を出しますが、たとえば耳の不自由な医療従事者の場合、その音をキャッチできるとは限りません。そこで音以外の方法で判断できる方法を研究しています。学生が病院実習に行った時、実際の医療現場を見てそんなテーマを思いついたようです。
また「医療従事者のIDカードなどに反応し、医療機器の操作ロックを自動で解除するシステム」を研究する学生もいます。医療機器の操作はどんどん簡単になっています。例えば点滴を早く終わらせようと、自分で勝手に点滴装置を操作する患者もいるんです。しかし、医療機器を患者でも操作できるという状態は、思わぬ事故を招きかねません。そこで、医療従事者が携帯するIDカードを感知した時だけ、ロックが解除できるようにすればいいのではないか、と考えたわけです。
他にも学生はさまざまなテーマに取り組んでいます。自ら興味の持てる研究を進めることで、エンジニアとしての専門性を育みたいですね。

「音」はどのように構成され、人の耳に伝わるかを分析。医療機器アラームの改善につなげる。

ゼミ取材 こぼれ話
医療機器を扱う上で常に大切にしなければならないのは「患者のプライバシーをどう守るか、患者自身の『こうありたい』という意志をどのように尊重するか」だと塚本先生は強調します。「今後も最先端の医療機器が次々に登場し、患者のさまざまな状況がわかるようになるでしょう。しかし患者の意に反する形で収集されたデータは、どれほど有用であっても患者は嫌な気持ちになります。場合によっては医療現場へ不信感を抱くこともあるでしょう。プライバシー尊重と医療機器の発展を両立させるのは容易ではありません」そんな問題意識を持って活躍できる専門家を育てることが、先生の目標です。