渡邊 琢朗

わたなべ たくろう

渡邊 琢朗 Takuro Watanabe

生命学部 生体医工学科 准教授
出身:鹿児島県薩摩川内市(鹿児島県立川内高等学校)
t.watanabe.s8@it-hiroshima.ac.jp

注射針を抜いた後は、血管を何分程度、どれくらいの強さで押さえればいい?

今や医療の現場にはさまざまな医療機器が導入され、診断や治療をサポートする存在となっています。場合によっては生命に直結するものだけに、安全性をどれほど徹底的に追求してもやり過ぎということはありません。そんな観点で、医療環境の安全性を向上させる研究に取り組んでいるのが渡邊先生。「ジャンルにこだわらず、医療の安全につながる幅広い領域に挑戦していきたい」と意欲を語る先生は、多彩な機器・システムの開発に取り組んでいます。

血管を圧迫して止血する際の圧力を感覚的に習得する「止血シミュレータ」。

血液検査などで血管に注射した後、医師や看護師に「注射した箇所をしっかり押さえてください」と言われた経験のある人も多いのはないでしょうか。しかし「しっかり」と言われても、どれくらい押さえればいいのか、一般の人にはピンときませんよね。
こうした微妙な感覚を教えてくれるのが、私の研究室で開発した止血シミュレータです。中にマイコンが組み込まれており、静脈だったらこれくらいの圧力、動脈ならより強い圧力・・・という具合に、基準の圧力を設定できます。そして丸いボタンを指で押さえるのですが、圧力が足らないとブザーがなります。この仕組みで必要な圧力を実感するわけです。
臨床工学技士も止血を行う場面があります。例えば、血液透析を必要とする患者さんの場合は、血圧の低い静脈血管に動脈をつなぎ、圧力の高い血液を流すことで血管を太くする手術を行います。血液透析治療後に止血をするのですが、静脈の血管はとても薄いので、強く押しすぎると血管がつぶれてしまいます。力加減が重要なのです。
この止血シミュレータがあれば、国家資格を取得するまで患者さんには触れない臨床工学技士の卵たちも、早い段階から微妙な感覚を体得できます。

学生たちと作製した止血シミュレータ。中央のボタン部を押さえるが、力が足りなかったり強すぎたりするとブザーが鳴る。

人工呼吸器の加温加湿部を、独立したシステムで監視。

別の学生は「人工呼吸器に取り付けられた加温加湿器の監視システム」を研究しています。
通常、私たちが空気を体に取り込む際は、無意識のうちに鼻や口で空気を温め、適度な湿気を与えてから肺に送ります。一方、人工呼吸器では空気を直接肺に送るため、乾いた空気が気管などを傷つける恐れがあります。そこで、加温加湿器には空気に適切な温度と湿度を加える機能があります。
この加温加湿器が故障してしまったら、気管や肺が傷つき、人工呼吸器を使用している患者さんの病気が悪化するかもしれません。こうしたトラブルに備え、加温加湿器にはセンサが備えられています。しかしセンサは、加温加湿器と同じシステム・電源で動作するものです。システムの重要な箇所がエラーを起こすと、加温加湿器と同時にセンサそのものが機能しなくなる事態も想定されます。センサが、加温加湿器から全く独立したシステム・系統で稼働していれば、同時にダウンしてしまうエラーは避けられます。そういった発想でつくり上げたわけです。
この監視システムについては、学生自らが学会発表を行い、関係者の注目を集めました。大きな手応えを得たことで、学生も自信を深めたようです。

歯の治療中の患者心拍数を、余計な手間をかけずに測定するには?

「歯科治療時の心拍測定装置」を研究する学生もいます。
歯科治療で心電図をモニターしたり、血圧を測ることはまずありません。通常はそれで問題ないのですが、中には心臓の弱い人もいます。出血もするし麻酔もかけるし痛みも強い歯科治療は、心疾患を持つ人にとってリスクがないとは言えません。
そこで、歯科治療中の患者の心拍を測定する方法を考えました。歯科治療では、必ずエプロンを用います。そのエプロンに測定用の電極を組み込むのです。治療中に不整脈や頻脈などの問題が発生したら、アラームで警告するわけです。新たな設備の導入は負担ですし、患者も手間が増えてわずらわしいものです。しかし、エプロンに組み込む心拍数測定装置なら、従来の歯科治療を邪魔しないし、コストもそれほどかさまないので、導入しやすいのです。心拍数測定だけですべてのトラブルを回避できるわけではありませんが、何もやっていなかった従来と比べれば、大きな前進と言えるでしょう。
ほかにも、医療環境の安全を担保するさまざまなアイデアがゼミから生まれています。これらを形にしていくことで、医療現場の課題に正面から向き合っていきたいと思います。

先生の研究室には、開発に携わったさまざまなアイテムがある。今後もいろいろな発想で医療環境や医療機器の安全性を向上させるシステムを生み出したい、と意欲を語る。

ゼミ取材 こぼれ話
臨床工学技士として病院に勤務した経験がある渡邊先生。だからこそ、医療現場でどういった機器やシステムが求められているか、を体験的に理解しています。「高齢化の進行に伴い、今後は在宅医療がますます増加するでしょう。在宅だと、高度で複雑な医療機器を設置するわけにはいきませんし、細かな管理体制が取れない場合もあるでしょう。患者さんや、その家族をサポートするための機器やシステムが、いっそう重要になってくるのではないでしょうか」。そんな先生が次に定めるターゲットは「点滴チューブの監視システムに取り組んでみようと考えています」。医療の安全を高めるため、先生の研究はこれからも続きます。