杉田 宗

すぎた そう

杉田 宗 So Sugita

環境学部 建築デザイン学科 助教
出身:広島県広島市(広島県立国泰寺高等学校)
s.sugita.zg@it-hiroshima.ac.jp

自分ですら気づかない"理想の住まい"が誕生? 建築は、デジタルデザインで革新する。

一部のハイブリッド車は、デザイナーの『腕』だけでは作られない、ということを知っていますか?ハイブリッド車は燃費向上のため、空気抵抗を抑えなければなりません。それだけでなく、万一の人身事故の場合でも「歩行者のダメージを最小限にする」というパラメータを設定。コンピュータに諸条件を入力してさまざまなシミュレーションをすることで、ハイブリッド車の形状が導き出されたのです。「人間の設定した条件に合わせ、ICTが"最適化"された形を生み出す。こうした『デジタルデザイン』を活用した手法が、やがて建築でも主流になるでしょう」と杉田先生は力強く語ります。

サグラダ・ファミリアの工期半減にも貢献したデジタルデザインの手法

「建築分野における『デジタルデザイン』活用」と聞くと、何を想像しますか。「パソコンと3DCGソフトを使って、超未来的なヴァーチャル都市を作ること」を頭に浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、それはごく一部に過ぎません。デジタルデザインは、もっと広範な領域で活用できるのです。
一例を紹介します。スペインにある世界遺産「サグラダ・ファミリア」を知る人は多いでしょう。実はサグラダ・ファミリアの工房には今、最新のITが導入されています。そして、3D構造解析や、3Dプリンタによる建設部材の試作・製作などが行われています。部分的ではありますが、デジタルデザインの手法がすでに取り入れられているわけです。完成まで300年かかると言われていたサグラダ・ファミリアですが、最新の公表では150年弱で完成予定と半減できたようです。この工期の大幅な短縮に、デジタルデザインが大いに貢献しているのは間違いありません。
意匠デザインの設計をはじめ、建築物の構造や設備、建設の手順・期間、完成後の保守管理に至るまで、デジタルデザインは建築におけるさまざまな段階に影響を与えます。デジタルデザインを活用すれば、建築のあり方は大きく変わるでしょう。

ロボットが3Dプリンタを操って、自在に建築部材を造り出す。

前項で「3Dプリンタによる建設部材の試作・製作」と述べました。これは、デジタルデザインが建築に与える大きな変革を象徴する事例と言っていいと思います。3Dプリンタがノズルから樹脂を出して、手のひらに乗るくらいのサイズの部品を造る姿はテレビや雑誌などで見たことがある人もいると思います。しかし、3Dプリンタはもっと巨大な建築部材、あるいは施設の一部まで造ることができるのです。素材も、樹脂だけでなく今や鉄などの金属も扱えます。だから、強度や耐久性に問題はありません。正確さでは、3Dプリンタ製の方が優秀なほどです。
海外では、3Dプリンタを建築に応用する研究が盛んに行われています。ロボットが3Dプリンタを操り、あるべき造形を作り上げていく様子は、従来の建築現場とは全く異なるもの。むしろ工房と呼んだ方が近いですね。今後は一般的な住宅やビルの建築現場も、工房のような空間に様変わりしていくかもしれません。
建築物そのものも変わるでしょう。3Dプリンタなら、曲面部材の製造も容易です。十分な耐久性を持ちながら、曲面を多用したユニークな建築物が登場するかもしれません。

3Dプリンタ。設計図はオープンソースになっており、誰でも1~2万円程度で3Dプリンタを自作できる。そのため、アメリカのある大学の建築学科では学生が1人1台ずつ3Dプリンタを持ち、研究を重ねている。

人間が「描く」のではなく、デジタル技術によって「描き出される」

設計のやり方も変わります。まず人間が、いくつかの条件を設定します。立地や土地の広さ、建築物の規模、利用者の属性や嗜好...。それらをコンピュータに打ち込んだ後、プログラムを動かすと、全条件を"最適化"させた建築物の設計図が、自動で生まれる。人間が「描く」のではなく、デジタル技術によって理想形が「描き出される」のです。
デジタルで描かれた設計図が製作工程ごとに共有され、3Dプリンタとロボットが部材製造を始める。組立や手順もデジタルによって一元管理される。建築は全く新しい概念と手法で進められることになるわけです。
海外ではこの分野の研究が始まっていますが、日本はまだまだです。建築におけるデジタルデザインを学ぶには相応の設備が必要ですが、充実した教育環境の中で、十分な設備を使いながら学べる大学は、西日本では広島工業大学しかありません。(※2015年12月取材時点)
これからの建築現場は、人間と3Dプリンタ&ロボットが協力して動く、ハイブリッドな空間になります。その空間を理解するには、建築と機械の両面を知らないといけません。あるいは設計や建築にビッグデータを応用することもあるでしょう。デジタルデザイン活用を本格化させる上では、幅広い視野が必要なのです。そういった人材を育成し、地域に送り出す。それが私の役割です。

杉田先生がアメリカの大学院時代に製作した"小屋"。直線と平面で構成することにこだわらず、「人の動き」を最優先としてデジタル技術で最適化すると、このような形状に。

ゼミ取材 こぼれ話
「私が院を修了したアメリカの大学では、機械分野と建築分野のコラボレーションが積極的に行われているんです」と語る杉田先生。その結果、例えば"状況によって形態をどんどん変化させる住宅"が生まれているのだそうです。陸を走る時は車、海を行く時は潜水艦に変形する乗り物がSF映画に登場したりしますが、これからは住まいがそうなるのかもしれません。「これもデジタルデザインを活用した建築の一つ。住宅を造るのは建築分野ですが、機械的に動く仕組みは機械分野の知識がないとできません。今後は、こういった"協創"はどんどん増えるでしょう」と杉田先生は強調します。だからこそ、"協創"を主導できる人材育成に力を入れたいと考えているのです。