渡壁 守正

わたかべ もりまさ

渡壁 守正 Morimasa Watakabe

環境学部 建築デザイン学科 教授

地震や水害などによる被害を減らすために"安全"を"可視化"する。

2014年8月に発生した広島豪雨災害。土石流によって人々が命を落とし、多くの住宅が流されるなど、地域に甚大な被害をもたらしました。こうした被害を少しでも減らしたい...そう考えているのが渡壁先生。先生は、建築物の耐震化や風の被害への対策などについて長く研究を重ねてきました。その経験をもとに、住民の命を守るためのシステムをつくろうとしているのです。「多くの研究者・関係者が参加するプロジェクトを立ち上げ、有効なシステムを生み出したい」と、先生は意気込んでいます。

複数の関係者と協力して生み出す「地域発信型の減災システム」

2014年の豪雨災害によって広島は深刻なダメージを受けました。こうした災害は、広島に限った話ではありません。平野部が少なく、傾斜が急な斜面を宅地として利用せざるを得ない日本の国土事情を考えると、どこで同じような災害が起こっても不思議ではありません。つまり、広島の豪雨災害をきっかけに生み出した減災モデルは、全国に波及させられる有用性の高いシステムになると考えています。
ある研究機関では、地すべりを実験的に起こす装置を使い、土砂崩れのメカニズムを解明することで災害を防ごうとしています。それも大事ですが、私の着眼点は少し違います。地震にしろ水害にしろ、自然災害を完全に防ぐことはできません。人間がいくら努力しても「防災」には限界があります。むしろ、災害が起こった時、どうすればいち早く避難することができるか、という「減災」に力点を置くことが重要だと考えています。
"いち早く避難する"システムの実現には、さまざまな分野の協力が必要となります。到底、私一人でできることではありません。だから、複数の学者や地域の関係者でチームを組み、プロジェクト型で「地域発信型の減災システム」の研究を進めようと考えたのです。

"安全"を"可視化"できれば、住民は落ち着いて行動できる。

必要な知識の一つに、センサを用いて音や光、圧力など物体のさまざまな要素を計測・判別する「センシング」があります。降雨状況をモニタリングし、土石流発生を予測するシステムが求められるでしょう。また、地形や土質を詳細に解析する知識も不可欠ですし、地域連携のためのコミュニティづくりや、避難経路・ハザードマップづくりを促す研究も大切です。さらに、災害後の復旧・復興をどうプランニングし、実践するかという点で、都市計画分野にくわしい人も重要でしょう。もちろん、私の出発点である建築分野の知識も加わってこないといけません。幸い広島工業大学には、それぞれの分野に精通した研究者や、復旧・復興に意欲を持ってボランティアとして積極的に参画する学生も多い。早々にスタートさせて、スピード感をもって成果に結びつけていきたいですね。
自然災害は、いつ起こり、どんな被害をもたらすかわかりません。わからないからこそ、多くの人を不安にさせるのです。いち早く災害状況が把握でき、避難の判断が的確に下せれば、加えて、あらかじめ避難後の暮らしや災害後の復旧がどうなるかわかっていれば、住民は安心して、落ち着いた行動がとれます。そうした"安全を可視化"する仕組みをつくり上げていきます。

梁や柱にかかる、見えない"力"を"可視化"する。

もう一つの研究テーマに「建築物に加わる"力"の"可視化"」があります。建築物を造る場合、梁にどんな力がかかるか、柱にかかる負荷はどれくらいかといった構造計算は欠かせません。
しかし、"力"は目に見えません。「こういう力がかかっている」と計算で得た数値を説明しても、専門家ならともかく、素人である一般の方にはピンときません。しかし建築物の「施主」の大半は建築の素人です。彼らにもわかってもらうにはどうすればいいか?そこで「"力"そのものをICTによって"可視化"すれば良い」と思いつきました。
右図をご覧ください。ある体育館をICT技術を使ってモデル化し、その揺れ方を動画で表現したものです。構造体の元の色は青ですが、かかった力の程度で色が変わり、最も負荷の大きい部分が赤くなります。これを見ると、地震によってどこに負荷がかかり、壊れやすいか、素人でも一目瞭然。建築設計を学ぶ学生にとっても、先にこういった図によって現象を体感すると、計算の意味がすんなり理解できるのです。ICTを使って安全を可視化させ、建築物の設計・デザインに活かすことができる学生を育てたいですね。

地震発生時、体育館にどのような力がかかったか、ICTで再現した動画。赤い部分に最も強い負荷がかかっている。

渡壁先生が研究していた、地震による建物へのダメージを診断するシステム。「構造躯体(建物構造を支える骨組み)が安全」とわかれば、そこで暮らす人は落ち着いた行動がとれる。

ゼミ取材 こぼれ話
広島工業大学への赴任前は、民間の研究所で主に天井や窓などの"非構造部材"における耐震化技術を研究していた渡壁先生。「例えば天井が落ちたり、窓ガラスが割れたりすると、人命に関わる可能性があります。減災を考えるなら、こうした"非構造部材"にも目を向けておかないといけません」と先生は言います。こうした知見は、現在考えている「地域発信型の減災システム」プロジェクトに、大いに反映されるはずです。
「プロジェクトでは、学生を地域にどんどん送り込むつもりです。それによって地域を巻き込むものにしたいし、学生自身も地域の多様な人々と交流することで、"人間力"が磨かれるでしょう」先生はそんな期待も抱いています。