番匠谷 薫

ばんしょうや かおる

番匠谷 薫 Kaoru Banshoya

環境学部 建築デザイン学科 教授
出身:広島県
k.banshohya.c5@it-hiroshima.ac.jp

環境負荷を低減する街づくりには、"木"を自在に扱う"手"の持ち主が不可欠。

オフィスでも学校でも、どこに行っても鉄筋コンクリート製ばかり。部屋に入ると、机にいすに書類棚、全部スチールかプラスチック。...そんな風潮が見直されつつあります。最近は、木造校舎へ建て替えを行う学校が増えてきました。世界的な大手IT企業が、オフィス家具を木製に切り替える、などの動きも出てきています。「木には多くの力が眠っている。そんな木を社会づくりのため、有効に活用すべき」と番匠谷先生は語ります。

木材の良さを理解している技術者が少なくなっている。

木は生育の過程で、空気中の二酸化炭素を大量に吸収します。木材として住宅や家具に利用されるようになっても、二酸化炭素は固定化されたままです。街づくりを行う上で、地球環境への負荷低減を最優先しなければならない時代において、温室効果ガス削減に貢献する木をもっと活用すべき。建築やインテリアの分野で、そんな流れが生まれています。
木造建築は、鉄筋コンクリートに比べ耐久性が劣ると問題視された頃もありました。しかし長年の研究により、耐火性・耐震性は大幅に向上しました。2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行されてからは、木造による地方自治体庁舎や学校が次々と誕生しています。何より木に囲まれた環境は、人々のストレスを緩和し、集中力を高めるという研究も報告されています。
しかし、「生活環境に木材を使用する」という意識が国民から薄れてすでに長い年月が経過したため、今一度、木材を暮らしの中に活用しようとしても、木材の良さを十分知って設計する技術者、木材を加工できる職人が少なくなってしまいました。私は「木材を理解した専門家」「木工技術のプロ」を育てたい、と考えています。

モノづくりの原点は工具を知り、その意味を学ぶこと。

木工技術を知る第一は、木材を加工する手道具である木工具を学ぶことです。それは工具の製作にまで立ち返ることを意味します。例えば鉋(かんな)を例にすると、木工職人たちは、刃物を造る鍛冶仕事まではやりませんが、鉋身と裏金を挿入する木製の鉋台は、のみで彫って作ります。職人はただ彫るだけではなく、自作の鉋台が鉋として確かに機能しており、「実際に木材が削れる」と確信できるまで鉋台の各部を調整します。職人たちは鉋削りが上手です。それは、鉋台を自分自身の手で作ることで、鉋の各部の意味を理解し、鉋という木工具を深く認識しているからなのです。これが職人としての成長であり、長く受け継がれている日本の職人の伝統と言えるでしょう。したがって、工具箱を開けて中にある木工具を見るだけで、相手の力量がわかると言う恐ろしい世界なのです。
その鉋は、国によって形状、構造、使い方が異なります。日本の鉋は引いて削りますが、世界的には押して削る鉋がほとんどです。台湾の鉋は柄を外すことができ、外すと日本の鉋と同じように引いて削ることができます。面白いですね。

  • 日本の鉋

  • 中国の鉋

  • 台湾の鉋

  • 欧米の鉋

先生は、日本、中国、台湾、欧米の色々な鉋や木工具をコレクションしている。

リサイクル・リユースのしやすさも、木工品の特徴の一つ。

この研究室の木製の本棚は、私の手作りです。使ったのはシベリア産のベニマツの角材。ベニマツは、色が白く木目はきれいですが、節が多いので角材から節を一つひとつ切り落としました。その節のない角材を集成接着して集成材の板材を作り、本棚に組み立てました。素材からこだわって選び、自分の求める形に加工して組み立て、最後に塗装。そうやって出来上がった木製品は、世界に一つだけ。同じ物はどこにもない。自分の手作り製品は最高ですね。まさに宝物です。
その本棚の向かいには、木製の整理棚を置いています。これは1960年代に作られた棚で、廃棄物だったんです。50年以上前に作られた物には見えません。当初は塗装がはげ落ちて汚く変色していましたが、表面をサンダー(やすり)で研磨して塗装し直しました。古く汚くなった表面も、一皮むけば新しい木肌が現れる。リサイクル・リユースのしやすさも、循環型社会にふさわしいと言われる理由の一つでしょうね。
建築デザイン学科には、種々の木工具と木工機械を整えた木工房が設置されます。この環境を活かし、木工具や木工機械を使用して、手を動かすことから学生には学んでもらおうと思います。全ては"手"から始まるのです。

先生の背景に写っている本棚は、先生の自作によるもの。ベニマツの角材から節を取り除き、集成材を作るところから手がけている。

ゼミ取材 こぼれ話
就職して建築や木工の現場に出ると、プロの職人たちと一緒に仕事をすることになります。木工房を活用した講義や実習の一つとして、地元の高級家具メーカーで働くプロの木工職人を講師として招く予定、とのこと。実際の木工現場で活躍するプロの技術を間近にすることで、学生の好奇心や興味は大いに触発されるでしょう。「基本的な木工に関する技術と職人の伝統的な考え方が身についていれば、職人から一目置かれる存在となり、仕事がスムーズに進むことになります。ここの授業での体験は、現場で活きる知識を習得するための良いきっかけになるはず。学生の立場で現役の職人と接する機会なんて、めったにない。私が学生に戻って学びたいくらいです」と先生は笑います。