熊本 直樹

くまもと なおき

熊本 直樹 Naoki Kumamoto

工学部 環境土木工学科 教授
出身:長崎県五島市 (長崎県立佐世保北高等学校)
n.kumamoto.wr@it-hiroshima.ac.jp

「土」のメカニズムを知ることが、地盤沈下や土砂災害を防ぐ第一歩。

大雨によって土石流が発生し、貴重な人命を失う災害が増えています。また産業用に埋め立てた土地が長い時を経て沈下し、建物や道路の安全性を損ねるといった問題も起こっています。このような災害や問題を防ぐには、『土』について、しっかり知っておかなければならない。そう語るのが、地盤工学の専門家である熊本先生。「一度『土』の問題が発生すると、根本的な解決は難しい。『土』の性質を知った上で、事前にしっかり対処しておくことが重要なのです」と先生は言います。

国内外の大規模建設プロジェクトに多数参加し、経験を積む。

私はかつて、民間企業で土木建設関係の仕事に携わっていました。担当したのは海洋構造物や発電用プラント、化学プラントなど。海外プロジェクトにも多数参加しました。企業生活の最後の現場となったアルジェリアでの肥料プラント建設では、Green Marlという特有の滑りやすい土に悩まされましたね。海外に出ると、思いもよらぬ事態に見舞われることがあるものです。
国内の仕事では、広島県で1989年に開催された「海と島の博覧会」のモニュメントとなった「パラダイスの塔」が印象的です。また国際電話に用いられる海底ケーブル修理・再埋設機の開発も記憶に残っています。変わったところでは、大阪で「浮体橋梁」にも取り組みました。これは海の上に橋を浮かべる、という世界初の試みです。設計の前例がないため、構造計算のやり方から自分たちで考えていったものです。
こうした経験を土台に、広島工業大学では『地域に貢献するテーマ』『時代が要請するテーマ』などの研究を進めようと考えています。具体的には「土砂災害」「海砂を取り過ぎた瀬戸内海の修復」「南海大地震が来た時の備え」や、「廃棄物関連」「環境保全・環境修復」といった内容が中心です。

大阪で建設を担当した浮体橋梁。波の影響を受ける水の上に橋を浮かせて旋回させる、という世界初の技術

十分な対策をしなかったため、まだら模様の沈下が進む、広島市西部エリア。

広島湾は海田から廿日市木材港に至るまで、埋立地が無数に連なっています。その中でも、顕著に地盤沈下が見られる場所とそうでない場所があります。
地盤沈下が目立つ代表的な埋立地は、広島市西部の「商工センター」エリアです。ここは1966年~1982年まで16年をかけて埋立工事が行われました。しかし、極めて柔らかい地盤であったために、工事前から比較すると、6mを超える規模の地盤沈下が発生しています。
しかも、工事完成後の沈下が一定でないのです。あるエリアは50cm以下なのに、となりのエリアは1m以上といった具合。原因は、地盤改良をしない区域があったり、地盤改良をしてもその仕様が異なっていたりして、沈下の性状が異なったためです。沈下が進みすぎ、基礎部分が露出した建物もあります。
ですが、商工センターのすぐ西の五日市の埋立地では、「まだらな沈下(不同沈下)」が目立ちません。五日市の埋立工事は、1985(昭和60)年~2000(平成12)年にかけて行われました。商工センターの経験を良い教訓として、工事が完了してからの沈下量(残留沈下量)が10cm以下になるような設計を行ったので、まだらな沈下を防ぐことができています。
隣同士でありながら一方には顕著な不同沈下が起こり、もう一方は沈下を防げた事実が、事前対策の重要性を物語っています。

広島市西部の「商工センター」。地盤が沈下してしまい、道路が波打っている。

2014年8月の土砂災害では、想定外の土石流がいくつも起こっている。

2014年8月の広島土砂災害では、多くの被害者が出ました。その災害のメカニズムを明らかにするため、複数の大学・高専合同による調査団にも参加しています。
災害の発生当初は、現地の地盤は花崗岩であり、その真砂土化が進んだために土石流被害を生んだ、と言われました。しかし調査を進めると、それだけが原因ではないとわかってきたのです。
例えば可部東6丁目では、2つの異なる方向から土石流が押し寄せています。1回目の土石流が起こった後、逃げ出そうとした人々を2回目の土石流が直撃したため、被害が大きくなったのです。また阿武の里団地地区では、災害マップで事前に予測していなかった場所にも、土石流が流れ込んでいます。実はここでも土石流が2回発生したと推定されており、1回目の土石流によって生まれた堆積物が、2回目の土石流の方向を変えたと考えられています。そのため被害が拡大してしまいました。
今回の土砂災害では、土砂流出量の暫定値を用いて比較すると、多い所で事前予測の4倍もの土石流が発生しています。こうしたデータを蓄積し、土石流のメカニズム解明に役立てる。それも地盤の専門家として大切な責務だと考えています。

2014年8月の土砂災害は、広島市に甚大な被害をもたらした。

ゼミ取材 こぼれ話
「取り組みたい研究はたくさんあるんです」と語る熊本先生。例えば「『地震時の液状化対策』がその一つです。地震時の液状化による建物被害を避けるにはどんな対策が必要か、といったことですね。また『廃棄物処分場の問題』もやりたい。処分場から有害物が漏れ出すと、環境への影響が甚大です。そういう事態を避けるには、埋め立てに関する専門的知識が不可欠です」。他にも『水没化している人工干潟の再生』など、先生の抱えるテーマは多彩です。土を知ることで、建設はもちろん、防災や地震対策、環境保護などさまざまな分野につながるのです。