中村 一平

なかむら いっぺい

中村 一平 Ippei Nakamura

工学部 環境土木工学科 教授
出身:大阪府守口市
i.nakamura.2u@it-hiroshima.ac.jp

巨大な鋼の橋を長持ちさせるには、"健康診断"と"予防接種"が不可欠。

川の向こう岸とこちら側をつないだり、本土と離島をつないだり...。さまざまな場所にかけられ、多くの人に利用されている鉄(鋼)橋。見るからにがっしりして丈夫そうな鋼橋も、いつかは劣化し、放っておくと壊れてしまいます。交通の重要なインフラでもある橋が壊れると、そこで暮らす人々に与える影響は甚大。何とか壊れないよう、少しでも長持ちさせる方法はないものでしょうか。「そのためには、早めの"健康診断"と"予防接種"が重要です」と、中村先生は語ります。

サビ・腐食や金属疲労などで、鋼橋はどんどん劣化する。

橋に限らず土木の構造物はどれも、造った後、数十年の単位で使用されます。それだけ長期間使うわけですから、劣化は避けられません。長寿命化を図るには、維持管理が不可欠。特に今の日本に、劣化した橋を壊して次々に新規の橋を造るような財政の余裕はありません。いかに長く使用できるようにするか、が大事なんです。
鋼の橋の場合、劣化の主な原因は、サビ・腐食です。腐食を防ぐ一番の方法は、水を貯めないこと。雨が降っても自然に流れて落ちるよう、設計・施工の段階でゆるやかに傾斜をつけておく、といった工夫を施すだけでも、劣化の進行はずいぶん違ってきます。
また、金属の疲労もありますね。細い針金を何度も折り曲げているとポキンと折れてしまいますが、同じことが鋼橋でも発生します。今、特に問題になっているのは、東京・大阪の大都市圏ですね。これらの都市では、地盤の軟弱な臨海部に鋼橋が多く用いられています。大都市では交通量も多いので、重い車両が何度も鋼橋を通ります。その結果、鋼が疲労し橋がつぶれやすくなるんです。
こうした劣化を防ぐ第一の手立ては、"健康診断"です。

問題点が早期のうちに発見できれば、解決も容易。

人間でも"健康診断"によって病気が見つかることがあります。重い病気でも早期のうちに発見できれば、治療も比較的容易。橋も同じなんです。
橋にとっての "健康診断"とは、「定期点検」ですね。目視によって鋼の状況を確認する。怪しいところは機械などを使って精密に調べる。そして不具合が見つかったら、早めの"予防接種"です。塗装がはげていたら、ペンキを塗るとか。ペンキを塗ることで鋼が水と直接触れなくなるため、サビ・腐食を防げます。もし亀裂などが見つかったら、程度にもよりますが、炭素繊維などの補強材で補修します。人間の場合と同じように、橋も悪くなるところ、負荷の集中するところは決まっていますから。そういった点に早めに手を付けておけば、橋を長持ちさせることができます。
橋などの公共物について、これまでは「壊れていないのになぜ補修するんだ」という意見が必ずありました。まだ使えるものに金を投入するのは、無駄ではないか、と。しかし今は変わってきています。

実際の鋼橋のような模型を作成し、さまざまな箇所でどれほど劣化が進むかを実験によって調べている。

正確な点検を効率的に行うための環境整備も重要。

公共事業に多くの予算を投入できない今の時代は、「ライフサイクルコスト」が重視されるようになっています。すなわち「造るのにいくらかかるか」だけを見るのではなく、造った後の維持管理コストまで見据え、トータルで判断しようということです。早めに手当を行えば、ライフサイクルコストは下げられます。
そのためにも点検が大事なのですが、少子高齢化により、維持管理の熟練者も徐々に減少している、という現状があります。経験の浅い技術者でも正確な点検が行えるよう、点検内容を客観的に判断する仕組みが不可欠ですね。国も、トンネルなどで大きな事故を経験して以来、交通インフラの点検・整備に対し、非常に危機感を持っているようです。国内の橋を5年に1度、目視で点検しようという方針を国が示したのも、その表れでしょう。しかし、日本には2m以上の橋が70万強もあると言われます。その全ての点検を実施するには人手が足りません。省力化のための機械導入などの環境整備が必要だと思います。
一般の商品と異なり、橋は簡単に捨てられません。少しでも長く安全に保つことが、人々の生活を支える上でも重要なのです。

試験設備を使用して金属に負荷を与え、疲労の状態を研究する学生を指導。

ゼミ取材 こぼれ話
大学で教鞭を取る前は、阪神高速道路公団に勤めており、鋼橋の計画・設計・施工や維持管理に携わっていた中村先生。先生はJICA(国際協力機構)の要請により、カンボジアで仕事したこともあります。「全長4000kmに及ぶ雄大なメコン川に橋を敷設しよう、というプロジェクトがあったんです。両岸をフェリーで行き来するほどの大きな川で橋を架けるのは、簡単ではありません。しかし橋ができれば、カンボジアの人々の生活が変わる。経済効果も大きい。ひしひしとやりがいを感じながら事業を進めたものです」 そんな経験を持つ先生は、学生にも「就職したらどんどん海外に行き、インフラ整備に力を尽くせ」と発破をかけています。