原 正純さん

20年ぶりのリターンマッチ~2003年度 日本食品工学会技術賞受賞!~

株式会社サタケ

技術本部第2開発グループ選別・計測担当

リーダー

(広島工業大学 電子工学科 1984年卒)

私が広島工業大学電子工学科を卒業したのは1984年、早いもので20年が経ちました。大学当時にお世話になったのは、なんといっても北山正文先生です。社会の厳しさ、人生の厳しさを教えていただきました。人間として甘かった自分には辛かった思い出もありますが、今日の自分があるのは、先生のお陰であると切に感じています。

先生は今年度で退職されるということで、先般、記念講演会と祝賀会に参加させていただきました。久しぶりに会う先生、先輩、後輩。スクリーンに当時の写真が映し出されると、感慨深いものがありましたが、先生のパワフルな所は健在でした。

我が社の紹介

卒業後、株式会社佐竹製作所(現:株式会社サタケ)へ入社し、電気開発課に配属されて以来、開発業務に携わり現在に至っています。

ここで少し我が社の紹介をします。株式会社サタケは1896年(明治29年)日本で最初の動力精米機メーカーとして創業し、食品加工機総合メーカーとしての地位を確立しております。主力商品は精米機、プラント、乾燥機、籾すり機などの大型機械です。

そんな中、私が担当しているのは測定器や検査機で、(被害妄想も多分にありますが)どちらかというと非主力商品の部類に属するものと思っていますが、入社して間無しの1986年、世界初の米の味を計測する「食味計」を発売しました。この種の機器が脚光を浴びた最初のものであったと思います。その後、小波はあるものの大波は来ず、いつかは主役をと夢見ながら20年が経過しました。

我が社屋「クリスタルビル」

穀粒判別器とは

20年目に訪れた、私にとっては最初の大波が今から紹介する「穀粒判別器」の開発です。開発の背景として、従来米(玄米)の外観品質検査は、国の検査官が目視鑑定で等級づけ(言い換えれば価格づけ)を行っていましたが、民間に移行することが決定され、当時の食糧庁主導の下、開発に参画した競合5社で競争開発することになりました。 ちなみに玄米一粒一粒は、その外観的特徴により「整粒」「未熟粒」「被害粒」「着色粒」「死米」等々、小さく分けると20種類以上のカテゴリに分類され、それらの混入率により等級づけされます。といってもイメージがわきませんね。「整粒」とは全く問題のない整った粒、「未熟粒」とは熟していない粒、「被害粒」とは何らかの被害を受けた粒です。

  • 整粒

  • 未熟粒

  • 被害粒

  • 整粒

  • 未熟粒

〔玄米の外観的特徴(例)〕

20年ぶりのリターンマッチ

さて、5社同時に開発スタートとなると、同じ目標に向かって競争するわけですから勝負がはっきりします。だから負けるわけにはいきません。

負けられない理由がもう一つ、実は私の卒業研究のテーマが「検査ロボットアイの開発」で、米の外観品質の検査自動化をサタケの依頼で行っていました。当時は光源にもの凄い熱を発する150W程度のハロゲンランプを使い、テレビカメラで撮像し、パソコンに取り込んで処理をしていました。

そういえばパソコンが世に出始めたのが、ちょうど私の学生時代。当時はNECのPC8801(8ビットのCPU、クロックは4MHzくらいだった。)にBASICの言語を使っていました。1枚の画像をディスプレイに表示するのに4時間かかっていたと思います。う~ん良い時代?でもさすがに4時間は我慢できないので、アセンブリ言語に挑戦!10秒位に短縮されたのじゃないかな?大学4年の時、PC9801が発売、これは16ビットのCPUで、当時その速さに感動したものです。

といった状況で、当時では割と進んでいた(と思う)画像処理を行い、研究をしていましたが、実用にはほど遠いもので、志半ばで終わっていました。従って、私にとってはライフワーク、20年ぶりに巡ってきたリターンマッチでもあったのです。

穀粒判別器の外観

穀粒判別器の開発

さて、開発には、1.最小・最軽量、2.最も操作性が良い、3.最も高性能、4.最も安価、の4つの目標を設定しました。

「最小・最軽量」「最も操作性が良い」については、導入したばかりの光造型機が大変役に立ちました。3次元のCADで設計し、光造型機にデータを渡すと、1日でソリッドモデルができます。何度か試行錯誤の上、納得のいくモデルができあがりました。問題は、「最も高性能」。まずは、目の部分の設計から始めました。目の部分には画像センサを用います。ここではCCDカラーラインセンサと呼ばれる物を採用しました。それまでは、このセンサを一つ装備し、米粒の片面を捉えるのが常識でしたが、ここではコストが気になりながらも、思い切って米粒の両面と側面を捉えられるよう3つ装備しました。とにかく他社に負けないよう、常識の上を目指して開発を進めました。スタッフが全員若く、先入観を持っていなかったのも幸いしたと思います。

さて、米粒の搬送部ができあがり、人間の目にあたるセンサも装備し、画像をとらえることができるようになりました。ここからはメインの識別部、いわゆる人間の脳に当たる部分の開発になります。一粒の処理に与えられる最大の処理時間は30msec、この間に画像を捉え、画像処理を施し、識別を行わなければなりません。搭載したCPUでは全然間に合いませんでした。

ここで登場するのがFPGAと呼ばれるICです。CPU(ソフト)で行っていた処理をFPGAに処理させますと15msecの空き時間ができ、線形判別関数に加えて非線形処理も導入できました。一般的には、非線形処理には教師データを与え、学習を行う人工知能を導入しますが、教師データが人間の目視鑑定であるため、あいまいな部分が多く適しません。ここでは教師データなしで学習できる、一見へんてこな方式を採用しました。これはかなりの成果がありました。

やりましたトップシェア

昨年の春、いよいよ5社同時に発売の運びとなり、市場の期待も大きかったので、全国各地からプレゼンテーションに呼ばれ、機械を持っていろんな所へ出張しました。行かなかったのは2~3県くらいだと思います。小型・軽量で良かったと何度も思いましたが、重ければ宅配便で送られるから逆に楽かなとも思ったものです。
肝心なのはセールス。お陰様で5社の中でトップシェアとなりました。ふ~良かった。

日本食品工学会技術賞 受賞

また、今年の8月に「人間が行う官能検査の機械化に際し、高速のハードウエアとソフトウエアの開発という課題を解決した技術」が評価され、日本食品工学会から「2003年度 日本食品工学会技術賞」を頂戴しました。

記念にいただいた「盾」

最後に

われわれの業界は農産物が相手です。言い換えれば自然が相手。もう1人の相手は人間。それゆえに難しい点もありますが、おもしろい所もある。これからも斬新な測定器を世に出していきたいと思っております。