2016年度卒業式式辞(2017年3月18日)

2016年度に卒業・修了された皆さんへ

キャンパスの桜のつぼみもほころび始め、本格的な春の訪れを感じる今日の良き日、ここに多数のご来賓並びに保護者の皆様のご臨席を賜り、平成28(2016)年度広島工業大学 大学院学位記、卒業証書・学位記授与式を盛大に挙行できますことは、本学の光栄とするところであり、教職員を代表して心から御礼を申し上げます。

学部卒業生989名、大学院博士前期課程修了生34名、そして大学院博士後期課程修了生2名の皆さん、これまで皆さんが尽くされた努力と研鑚に対し敬意を表するとともに、心よりお祝いを申し上げます。卒業、修了おめでとうございます。

この栄えある日にご臨席を賜りましたご来賓の皆様、年度末を迎えご多忙のところ、卒業生・修了生の門出をお祝いくださいまして、誠にありがとうございます。長年にわたり、学校法人鶴学園並びに本学の教育運営にご理解とご協力をいただいておりますことに、改めまして感謝を申し上げます。

そして、保護者の皆様、高いところから失礼いたしますが、ご子女のご卒業・修了、誠におめでとうございます。ご子女の本日の晴れ姿をご覧になられて、大変お喜びになっておられるものと拝察し、心よりお祝いを申し上げます。また、平素より本学の教育運営に深いご理解とご支援を賜り、学生の育成にご協力いただきましたことに対し、厚く御礼を申し上げます。

さて、卒業生および修了生の皆さん、皆さんはそれぞれの目標や夢を抱いて大学、大学院に進学され、勉学や研究に励み、多くの友と出会い、体育祭や工大祭、あるいはクラブ活動などの学生生活において貴重な経験を積んで、本日を迎えられました。今、こうして皆さんの凛々しく、晴れやかな姿を見ていますと、本当によく頑張ってくれたなと、胸が熱くなります。

本学は、校祖鶴虎太郎先生の遺訓『教育は愛なり』を建学の精神に据え、学園創立者の鶴襄先生が定めた教育方針『常に神と共に歩み社会に奉仕する』を教育の根幹とし、倫理観ある技術者の育成を目的として皆さんの教育に当たってまいりました。皆さんには本学で培った「専門力」と「人間力」をいかんなく発揮し、社会で活躍されることを願っています。しかしながら、これから皆さんが漕ぎ出す世界は、第4次産業革命とも呼ばれる変革のうねりが高まっています。こうした波をどう乗り切るかは、難問と言えるでしょう。

「2045年問題」という言葉を皆さんも聞いたことがあると思います。英語でArtificial Intelligence、つまりAIと呼ばれる人工知能が、全人類の知能を上回る、その分岐点が2045年になるという予測です。人工知能が自ら人工知能を作ったり、人の脳をコンピューターに再現したりして、人間をコントロールする時代がくるというのです。まるでSF映画の世界です。

2045年といえば28年後、22歳ならば50歳になります。皆さんが社会の一線で活躍しているころです。人工知能に支配されるなんて、そんなことになるはずがないと思いたいところですが、現実になるかもしれないと思わせるほど、最近の人工知能の進化はすさまじいものがあります。今後、10年から20年間で職業の約半分は、人工知能やロボットに替わるだろうというシンクタンクの予想が発表されています。大変な時代がやってくるのです。大丈夫なのだろうかと、とても不安になります。

しかし、人工知能には、ビッグデータを駆使した情報処理能力は優れているが、過去に学習したことがない、想定外の現象は予測しにくいという弱点があると言われています。予想しない事態に遭遇した時、最終的な判断は人間が下すことになるのです。ジェット旅客機を想像してみてください。完全に自動操縦になったとしても、パイロットが必要だと思いませんか。そうでないと私たちは安心してジェット機に乗る気になれません。やはりとっさの判断は、人間の能力が頼りなのです。

私たち人間には、大別して二つの能力・スキルがあります。一つは、IQに代表されるような「認知能力」で、AIはその象徴と言えるかもしれません。身近な例で言えば、皆さんが小さいころに取り組んだ計算ドリルや問題集は、「認知能力」を鍛えるためのトレーニングです。

人間が持つもう一つの能力は、「非認知能力」です。「とっさの判断」「折り合いを付ける協調性」「思いやりの心」「自制心」といった「人間力」スキルです。このところ、こうした「非認知能力」の生産性の高さや社会貢献度が各方面で評価され、大切にされ始めています。例えば、年収、社会的地位などの成果は、「非認知能力」の影響が大きいという研究論文が発表されています。

AIを開発するための専門力である「認知能力」はもちろん必要ですが、情報化が進むこれからの時代においても「非認知能力」が大切なものであることに変わりはありません。本学の建学の精神と教育方針には、皆さんに「非認知能力・人間力」も身に付けてもらいたいという想いが込められています。

人生は必ずしも自分の思うとおりにはなりません。苦しいこと、困難なことがあるのは当たり前です。いや、苦しみがあるからこそ人間は強くなれるのです。困難を乗り越える力は、「非認知能力」から生まれます。「人間、頑張れ」「やり抜け」「AIなんかに負けるな」、まさにそんな心境です。これから社会の荒海に乗り出す皆さんには、「非認知能力」としての「やり抜く人間力」を磨いてほしいと思っています。

最後に、明治・大正期の詩人、山村暮鳥の「人間の勝利」という詩を皆さんに贈ります。厳しい風雨にさらされながらも、山の頂に凛として立つ松の古木を、苦しみに負けない強さの象徴に見立て、頑固なまでに信念を持ち続けよと、人間を励ましています。

人間の勝利


人間はみな苦んでゐる
何がそんなに君達をくるしめるのか
しつかりしろ
人間の強さにあれ
人間の強さに生きろ
くるしいか
くるしめ
それがわれわれを立派にする
みろ山頂の松の古木(こぼく)を
その梢が烈風を切つてゐるところを
その音の痛痛しさ
その音が人間を力づける
人間の肉に喰ひいるその音(ね)のいみじさ
何が君達をくるしめるのか
自分も斯うしてくるしんでゐるのだ
くるしみを喜べ
人間の強さに立て
耻辱(はぢ)を知れ
そして倒れる時がきたらば
ほほゑんでたほれろ
人間の強さをみせて倒れろ
一切(すべて)をありのままにぢつと凝視(みつ)めて
大木(たいぼく)のやうに倒れろ
これでもか
これでもかと
重いくるしみ
重いのが何であるか
息絶えるとも否と言へ
頑固であれ
それでこそ人間だ

以上、式辞といたします。

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