2015年度卒業式式辞(2016年3月19日)

2015年度に卒業・修了された皆さんへ

暖冬予想とは裏腹に厳しい寒波に見舞われた冬の季節も終わり、キャンパス内の桜のつぼみも一気に膨らんでいます。本格的な春の訪れを感じます。

本日、ここに多数のご来賓ならびに保護者の皆様のご臨席を賜り、平成27(2015)年度広島工業大学 大学院学位記、および広島工業大学 卒業証書・学位記授与式を盛大に挙行できますことは、本学の光栄とするところであります。

学部卒業生949名、大学院博士前期課程修了生34名、そして大学院博士後期課程を修了し博士(工学)の学位を取得された景山朋定さん、これまで皆さんが尽くされた努力と研鑚に対し、学校法人鶴学園と広島工業大学を代表し、敬意を表するとともに、心よりお喜びを申し上げます。

卒業、そして修了おめでとう。

また、ご来賓の皆様におかれましては、年度末を迎えご多忙のところ、卒業生・修了生の門出をお祝いくださいまして誠にありがとうございます。平素より、本学の教育運営にご理解とご協力をいただいておりますことに鶴学園と広島工業大学を代表し、感謝を申し上げます。

そして保護者の皆様、高いところから失礼いたしますが、ご子女のご卒業・修了、誠におめでとうございます。ご子女の本日の晴れ姿をご覧になって、大変お喜びになっておられるものと拝察し、心からお祝いを申し上げます。また、長年にわたり本学の教育運営に深いご理解とご支援を賜り、学生の育成にご協力いただきましたことに、この場をお借りし、改めまして厚く御礼を申し上げます。

さて、卒業生および修了生の皆さんは今、本学で過ごした学生生活のさまざまな出来事を思い浮かべていることでしょう。思い返せばほんの数年前、皆さんはここ鶴記念体育館において期待と不安の入り混じった緊張した面持ちで入学式に臨んでいました。そして今、ここにいる皆さんの晴れやかな姿を見ますと、とてもりりしく、たくましさを感じます。中でも、生命学部を卒業する皆さんは第一期生として、広島工業大学の新しい1ページをしるすことになります。これからの時代の大きなテーマである高齢化や健康、医療にかかわる分野において、新たな道を切り拓いていかれることを期待しています。

本学では、建学の精神「教育は愛なり」および教育方針「常に神と共に歩み社会に奉仕する」という教育理念のもと、人間性豊かな倫理観ある技術者の育成に取り組んでまいりました。皆さんはそれによく応えてくれました。皆さんが今後、地域社会で、日本で、そして世界で、活躍できる人材であると、自信を持って世に送り出せることを誠にうれしく思います。皆さんには本学で学んだことを糧に、大いに羽ばたいていただきたいと願っています。

しかしながら、これから皆さんが船出をする社会はグローバル化や人口減少といった荒波が渦巻く、まさに激動期にあります。振り返りますと戦後のおよそ50年間、日本はモノづくりを中心に発展してきました。しかし、バブル経済が崩壊し、世の中がインターネット時代に突入してから、停滞が続いています。国の政策や世界経済の動向にも原因はあるのでしょうが、これまで当然と考えられていた認識や価値観が当てはまらない「パラダイムシフト」、つまり歴史的な変革期に差し掛かっているからではないでしょうか。

「第4次産業革命」という言葉を皆さんも聞いたことがあると思います。今、まさにそれが進行しつつあるのです。蒸気機関による「第1次産業革命」、電気や石油による「第2次産業革命」、コンピューターによる「第3次産業革命」、それに続く「第4次産業革命」は何が引き金になるのでしょうか。それはIoTであると言われています。モノのインターネット「Internet of Things」のことです。従来のインターネットの世界は、人と人がパソコンやスマートフォンなどのIT機器を介してつながっていましたが、IoTの時代になると、あらゆるモノがインターネットでつながり、暮らしやビジネスを劇的に変えてしまうのです。

実際にIoTを巡る動きは加速しています。一例を挙げますと、自動車の自動運転です。その開発競争に、自動車製造とは縁のない世界的IT企業であるアメリカのグーグルが参入しています。というより開発を先行させているのです。

報道などによりますと、自動車メーカーはドライバーが車に乗っていることを前提とし、緊急時にはドライバーが対応する自動運転の開発を進めています。これに対し、グーグルは、全ての操作を車が行い、人は全く関与しない自動運転を目指しているそうです。

グーグルは、地図情報やリアルタイムの交通情報など検索機能によるビッグデータ収集に優れていますから、人工知能を持った自動車が道路をごく普通に走るのもそう遠い未来ではないでしょう。実際、つい先日、アメリカの運輸当局は、グーグルが開発を進めている自動運転車について、運転手は人口知能だという法解釈を示しました。そうなると、運転免許証を持たない高齢者も、ハンドルもアクセルもブレーキもない車に乗って気軽に移動できる便利な世の中になります。

このように、あらゆるモノがインターネットでつながるIoTは、私たちの暮らしや仕事を一変させます。それだけでなく、産業の在り方も変えてしまうのです。自動車産業は、これからはハードとしての自動車製造そのものより、自動運転の技術開発が競争の中心になる、と言われています。自動車に限らず、あらゆる産業分野で今後、IoTによる第4次産業革命が進み、これまで私たちの社会で整えられてきたさまざまな仕組みが抜本的に見直されることになるでしょう。

考えてみますと、世の中の技術革新が進むことは、人間の暮らしを豊かにすることであり、それは人間が持つ欲求を満たしていくことでもあります。個人の欲求レベルについて、アメリカの心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていると定義づけました。低階層の欲求が満たされると、より高い階層の欲求を欲するようになるというのです。

その欲求5段階説によりますと、一番下の第一階層は「生理的欲求」で、食べたいとか眠りたいとか本能的な欲求です。これが満たされれば次に「安全欲求」を満たそうとします。雨風をしのいだりする家がほしい、健康でありたいなど安心・安全を求める欲求です。次に集団に属したり仲間を求めたりする「社会的欲求」が来ます。この欲求が満たされないと孤独感や社会的不安を感じやすくなります。

ここまでは外的な要因による欲求ですが、その上は内面的に満たされたいという高い次元の欲求になります。4番目が「尊厳欲求」と言い、他人から認められたい、尊敬されたいという欲求です。最後の5段階目に来るのが「自己実現欲求」です。自分の能力を引き出して創造的な活動がしたいという欲求です。

そしてマズローは晩年、さらにもう一つ上に高い欲求があると補足しました。それが「超越した欲求」です。己を超越し、他者の自己実現を助けたいという欲求です。見返りを求めず、ただひたすら目的に没頭する領域、つまり社会に奉仕する精神なのです。

皆さん、気づかれたでしょう。そうです。これは本学の教育方針「常に神と共に歩み社会に奉仕する」に通じる欲求なのです。最高の欲求である「超越した欲求」を満たすべく努力をすることは、すなわち教育方針を具現化するべく常にチャレンジ精神を持って努力することであり、そうすれば、自ずと進むべき道が見え、どんな仕事、境遇にあっても動じることはないと確信します。

これからの時代をどう生きるべきか。「我々には地図よりもコンパスが必要な時代」と言われています。地図は古くなれば使えませんが、コンパス、つまり羅針盤があれば前に進めます。本学の教育方針はまさに人生の羅針盤なのです。第4次産業革命によって、いかに人工知能が進化しようとも、IoTにより世の中が劇的に変わろうとも、「超越した欲求」、世のため、人のために尽くしたいという人間本来の究極の欲求は不変です。それこそが人間が求めるものであり、人間力を発揮することなのです。

先の見通せない、不安定な時代です。苦しい時、辛い時もあるでしょう。迷うこともあると思います。そんな時、「常に神と共に歩み社会に奉仕する」、この言葉をかみしめて、自らに問い掛け、常にチャレンジ精神を持って乗り越えて欲しいのです。きっと乗り越えることができると思います。

あらためまして皆さんの卒業と修了をお祝いするとともに、これからの活躍に期待し、式辞とします。

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