2012年3月卒業式式辞(2012年3月17日)

2011年度に卒業・修了された皆さんへ

近年になく寒さが厳しく感じられた冬の季節も終わり、図書館下の紅白のしだれ梅も満開となり、ようやく春の季節を迎えました。皆さんがいよいよ学び舎から巣立つ今日のよき日に、多数のご来賓ならびに保護者の皆様のご臨席を賜り、平成23年度広島工業大学 大学院学位記、卒業証書・学位記授与式を盛大に挙行できますことは、本学の光栄とするところであり、教職員を代表して心から御礼申し上げます。

本日、ここに集われた883名の学部卒業生、74名の大学院博士前期課程修了生、そして、本日は残念ながらご欠席ですが、博士の学位を授与された服部明生(はっとり・あけお)さん。おめでとうございます。この卒業と修了の式にあたり、これまで皆さんが尽くされた努力と研鑚に対し、学校法人鶴学園と広島工業大学を代表し、心よりお慶びを申し上げます。

ご来賓の皆様におかれましては、ご多忙のところ、卒業生・修了生の門出をお祝いいただきまして、誠にありがとうございます。

そして何よりも、長年にわたり、本学の教育運営に、ご理解とご支援を賜りました保護者の皆様、高いところから失礼しますが、ご子女のご卒業・修了、誠におめでとうございます。ご子女の本日の晴れ姿をご覧になって、大変お慶びになっておられるものと拝察し、心からお喜び申し上げます。

さて、卒業生および修了生の皆さん、本学で学生生活を過ごされたなかで、いろいろな経験をされたと思います。大学とはどんなところだろうと期待と不安を抱えて臨んだ入学式。そのすぐ後に開催されたオリゼミ。体育祭や工大祭、そしてクラブ活動で流した汗と涙。夜遅くまで仲間と一緒に打ち込んだ卒業研究。厳しい社会経済情勢のもとで取り組んだ就職活動など、一生忘れることのない思い出をたくさん作ったと思います。

こういった思い出を胸にしっかりと刻み、その経験を生かして、近い将来、皆さんが家族のために、地域社会のために、そして日本のために活躍されることを期待しています。

ただ、皆さんの在学中に最も心に強く、重く残ってしまったのが、昨年3月11日に発生した東日本大震災でした。亡くなられた方々、被害に遭われた方々には、心よりお見舞いを申し上げます。

残された私たちは、これから日本の復興のために、努力して行かなければなりません。復興は、決して被災地の皆さんだけの問題ではなく、日本に住んでいる人、すべての問題だからです。

復興のために様々な対策が実行され、計画されていますが、広島工業大学ができる復興の一つは、技術立国日本を支える技術者の育成です。この度の震災で、私たちは日本の技術力の高さを再認識しました。震災は、多くの企業や工場へ直接被害を与え、操業停止などに追い込みました。さらに、サプライチェーンが停電で寸断されたことによって、日本だけでなく世界の大手自動車メーカー、電子製品メーカーなどでは、東北地方を中心に作られていた精密部品が手に入らなくなり、製品の製造に大きな支障が出てしまいました。普段何気なく使っている製品も、その製造に関わる小さな工場が欠けてしまっては、手に入らないということが分かりました。そして、それを支えていたのは、多くの真面目な技術者でした。

こういった工場が操業停止になる、あるいは製造する人がいなくなることにより、日本の経済活動が大きく低下してしまいました。本学は、日本経済を支える技術者育成に今後も取り組むことによって、復興へ貢献してまいりたいと思います。

さらに、私たちは、本学園の建学の精神『教育は愛なり』と教育方針『常に神と共に歩み社会に奉仕する』に基づいた、倫理観ある技術者の育成に継続して取り組む所存です。倫理観の大切さを改めて教えていただいたのは、震災で被災された人々でした。

大震災の後、被災者のほとんどがパニックを起こさず、事態を冷静に受け止め、配給される物資の順番を整然と待つ様子に、世界各国から賞賛の声が寄せられました。

また、被災者のインタビューにおいて、家を流され、肉親が行方不明になっても、天を恨まず、それを試練として受け止めている姿を見て感動したのは、私だけではないと思います。

被災者だけではありません。災害の悲惨さが判明してすぐに、多くのボランティアが全国から駆けつけました。腰まで泥水につかって、黙々と被災者を救い出している自衛隊や警察の方々がいました。決死の覚悟で「これから原発へ行く」とメールで妻に告げた消防隊長に、「日本の救世主になって下さい」と一行の返事を出した奥様がいました。素晴らしい日本人が、たくさんいます。

本学の学生も、ただちに義援金を募る行動を起こしました。また、昨年9月には、広島からバスに乗って岩手県大船渡市まで行き、災害復興にあたったグループがありました。立派な学生がたくさん育っていることは、本学の誇りであります。

このような倫理観は、長い年月をかけて、私たちの先人が作りあげてきた、美しい日本文明から生じています。聖徳太子以来、「和をもって貴しと為す」という精神を守ってきた伝統的な日本文明は、秩序とか、和の精神を重要視してきました。

さらに日本人は、中世のころから、自由とは身勝手と見なしてきましたし、個人を尊重すると、全体の秩序や平和が失われる、と考えてきました。自分のためより、公のためにつくし、人々が道徳を求めつつ、穏やかな心で生きる平等な社会を理想としてきました。

ところが、残念なことに、戦後急速な経済発展を追求した日本社会において、この美しい日本文明は、少しずつ失われてきたように感じます。「金儲けのために平気で人をだます」、「むしゃくしゃしていて誰でもよかった、と言って見ず知らずの人を傷つける」、「誰もわからないからいいだろう、と賞味期限を偽って食べ物を売る」、といった犯行が、たびたび見られるようになりました。

日本は、長い2000年の歴史の中で、多くの大地震を経験し、戦争にも遭いました。飢饉などで生活が苦しい時期も何度もありました。私たちの先人は、そういう国難を乗り越えてきた民族である、ということを思い出してください。

大災害は本当に不幸なことですが、新しい日本を作ることができたら、無駄ではないと思います。無駄にしてしまっては、命を落とされた方、被害に遭われた方々に、本当に申し訳ない。復興は長い道のりになるでしょうが、必ず立ち上がり、今まで以上に、素晴らしい日本をつくりたいものです。

新しい日本の国づくりを、私たちは皆さんの世代に託します。そのための財産、つまり皆さんが新しい日本を築いていくために基礎となる知識と技術を広島工業大学では授けました。さらに、美しい日本文明を再構築するための精神的な財産を、建学の精神『教育は愛なり』と教育方針『常に神と共に歩み社会に奉仕する』に基づいた人間形成の教育として授けました。

皆さんには、この2つの教育理念を覚えていてもらいたいと願っています。この言葉は、将来、皆さんが社会に出て働き、困難に直面したときに役に立つ言葉です。そういう力がある言葉です。

以上、卒業していく皆さんが、倫理観ある技術者として成長し、素晴らしい日本を築いてくれることを期待し、式辞といたします。

過去のメッセージ